2026年4月28日、世界中からスタートアップ関係者が集う「SusHi Tech Tokyo 2026」に、DMZ Japan代表の並木由美子が登壇しました。テーマは「カナダから世界へ:包摂的なイノベーション・エコシステムの構築」。Founders Nationの名倉勝氏がモデレーターを務め、North GuideのDan Herman氏とともに、カナダのエコシステムの強さの源泉と、日本企業にとっての示唆について語り合いました。本記事ではセッションのハイライトをお届けします。「多様性はカナダのDNA」セッションは、名倉氏の問いかけから始まりました。「カナダに行ったことがある人?」。手を挙げたのはほんの数人。「日本ではカナダのエコシステムがまだあまり知られていない」という言葉のとおり、まずはカナダという国の輪郭を伝えるところからスタートしました。並木はトロントに約3年住んだ経験を持ちます。「カナダに引っ越して、自分がよそ者だと感じたことは一度もなかったんです。ルームメイトもDMZのスタッフも、世界中から来た人ばかり。だから私はいつも、多様性は『カナダのDNA』だと言っています」。Dan氏は、その実感を裏付けるデータも示しました。彼によると、カナダの人口4,100万人のうち25%はカナダ生まれではなく、トロントやバンクーバーでは移民比率が50%にも上る。テック領域では、プログラマーの35%、エンジニアの45%、化学者の55%が移民。「歴史的にも、現在においても、カナダ経済は移民の力の上に成り立っている」とDan氏は語りました。「開かれた」エコシステムの作り方DMZはトロントメトロポリタン大学を拠点とするスタートアップ支援組織です。並木は、その独自性をこう説明します。「日本の大学のインキュベーターは、学内発のスタートアップだけを支援する傾向があります。でもDMZは、カナダとの協業や北米進出を目指す企業なら、世界中のどんなチームにも門戸を開いているんです」。その姿勢は、日々のプログラムにも表れています。先月開催された「Women Innovation Summit」には、女性創業者を支える投資家ら約300〜400人が集まり、メインコンテンツである、ピッチコンペティションでは賞金として総額20万カナダドルが投資されました。他にも「Black Innovation Summit」をはじめ、女性・黒人・先住民など多様な創業者を支援するプログラムも複数走っているといいます。Dan氏も、政府の取り組みに触れました。「カナダの黒人起業家は、他の起業家に比べてベンチャーキャピタルからの資金調達が少ないというギャップがあります。歴代政権はそこに対処する基金を立ち上げてきた。女性起業家のシェアもまだ約30%にとどまるなかで、初期段階のファンドやエンジェル投資家のグループが、その不均衡を埋めようとしています」。研究力から世界水準のユニコーンへユニコーン企業の数も、カナダは33社。日本の8社を大きく上回ります。Dan氏が紹介した代表例の一つが、トロント大学発のAI企業 Cohere です。「評価額こそ違いますが、OpenAIと真っ向から競合しています。Cohereに投入された研究知見は、世界トップ5のAI企業に匹敵するものです」。もう一社は、トロントに本社を置く量子コンピューティング企業 Xanadu。2026年3月にナスダックとトロント証券取引所に同時上場したばかりで、いま大きな注目を集めています。「これらはトロントをはじめ各地で蓄積されてきた、世界水準の研究知見に支えられています」とDan氏。「カナダは長年かけて研究力を築き、そこから商業の力へと変換しようと努力してきました。大きな政策転換から約10年が経ち、その成果がユニコーン企業という形で表れ始めている」。AI研究の第一人者ヨシュア・ベンジオ氏をはじめ、ディープテック、量子、サイバーの領域では、カナダは世界でも有数の研究機関を擁する国です。日本にとってのカナダ:人材、市場、パートナー多様性は、理念であると同時に実利でもあります。並木は、トロントで会ったある日本企業の声を紹介しました。「『なぜトロントを選んだのか』と尋ねたら、『トロントでは世界最高の人材が手に入る。出身地も地政学的背景も関係ない』と答えてくれたんです」。AIや量子コンピューティングの最前線で戦うなら、この人材プールは強力な武器になります。カナダは、創業初期のスタートアップへの政府支援が手厚いことでも知られます。R&D費用への最大40〜50%の補助、州・連邦の各種プログラム、そして「内輪のサークルがない」フラットなコミュニティ。「アメリカには、現地でコネクションを持つ人たちだけがアクセスできる輪のようなものがあると聞きますが、カナダにはそれがない。到着初日からDMZに連絡してもらえれば、エコシステム全体があなたをサポートします」と並木は語りました。どこに拠点を構えるか:地域ごとの強みカナダ進出を真剣に検討するうえで、最初に立ちはだかるのは「どの都市に拠点を置くか」という問いです。「カナダは地理的にもとても広い国で、地域ごとに得意領域がはっきりしているんです」とDan氏は語ります。具体的には、バンクーバーはクリーンテクノロジーとライフサイエンスに強く、カルガリーは伝統的なエネルギー産業を起点に急速な多様化が進む地域。中央部のプレーリーは農業技術が盛んで、オンタリオ州とケベック州にはAIと量子の世界最高峰の研究拠点があります。東部・ハリファックスでは、海洋保護研究を行う数億ドル規模の研究組織が動いており、海洋関連スタートアップの絶好の進出先です。「セクターの特異性と地域の強みをどう適合させるか。それが最初の課題なんです」とDan氏。Dan氏がもう一つ強調したのは、ベンチャーキャピタルが人材を呼び、人材がさらにVCを呼ぶ、地域単位での好循環です。「特定のテクノロジーハブが、特定の都市に育っているんです。何を作りたいかによって、進出先の最適解は変わってきます」。なお、DMZ JapanとNorth Guideは、こうした地域選びを含む実践的なガイドとして、日本の起業家向けの「カナダ市場参入プレイブック」を共同制作中。来月公開予定で、DMZのWebサイトから閲覧できる予定です。日本がカナダから学べることセッションの終盤、並木は日本人に向けた静かなメッセージを残しました。「カナダ人は、本当に多様な文化に触れているからこそ、『一人ひとり違う』ということを前提にしているんです。一方で日本人は『みんな同じ』だと思いがち。だから空気を読もうとする。でも本当は、コミュニケーションを通じてお互いを理解しに行くべきなんですよね。そこに、カナダから学べるヒントがあると思います」。包摂的なエコシステムは、制度だけでつくられるものではありません。「人々が、自分は歓迎されている、と感じられる場所をどう設計するか」—— それがカナダから日本への、最大の問いかけだったのかもしれません。DMZ Japanでは、日本のスタートアップのカナダ進出、そしてカナダ企業の日本展開を支援しています。カナダとのコラボレーションにご興味のある方は、ぜひお気軽にお声がけください。