DMZ Japanは、カナダのイノベーション環境を体系的にまとめた『Canadian Ecosystem Report』をリリースしました。本シリーズでは、その内容をテーマごとに抜粋して紹介します。今回取り上げるのは、カナダ進出の最初の一歩の組み立て方です。カナダには、海外から進出する企業を支援する組織が数多く存在します。連邦政府、州政府、地域の投資誘致機関、アクセラレーター、業界団体。むしろ多すぎて、最初にどこへ連絡すればよいのか分からないという声のほうが一般的です。つまり課題は、支援が存在するかどうかではありません。どこから始めるかです。この記事では、カナダのエコシステムの成り立ちを整理したうえで、最初の接点づくりから拠点の選定までの手順を解説します。エコシステムは3つの層で動いているカナダのイノベーション・エコシステムは、革新的な企業の成長を支える組織・プログラム・制度のネットワークです。連邦、州、地域という3つのレベルで、それぞれ役割の異なるプレイヤーが動いています。連邦政府:国家的な優先分野を定め、資金を配分し、税制優遇を提供し、革新的な企業から調達する地域開発庁(RDA):連邦の資金と支援を、地域の経済的な優先度に合わせて各地に届けるGlobal Innovation Clusters:連邦が出資し産業界が主導する、セクター別の企業・研究者・投資家のネットワーク大学・研究機関:研究と人材を生み出し、近年は事業化やスタートアップ育成にも関与する起業家支援組織(ESO):インキュベーターやアクセラレーターを運営し、拠点・メンター・投資家へのアクセスを提供する投資家:シードからグロースまで、各ステージで資本を供給するカナダのエコシステムが特徴的なのは、これらがすべて連携する前提で設計されている点です。連邦の資金は地域開発庁を通じて各地のESOへ流れ、ESOは企業と投資家をつなぎます。Global Innovation Clustersや、大学院生や研究者を企業の研究プロジェクトに派遣し費用の一部を補助する産学連携組織であるMitacs、NSERC(カナダ自然科学工学研究会議)も、応用研究のために企業と大学の研究者を引き合わせます。海外から参入する企業にとっての意味は明確です。最初の接点をひとつ作れば、そこから他の部分への扉が開きます。進出企業が使える3つの窓口では、その最初の接点をどこに求めるか。海外企業が使える窓口は、性格の異なる3種類に整理できます。① 母国の貿易支援機関日本企業であればJETROにあたる組織で、進出を最終決定する前の段階から接触して構いません。母国とカナダ双方の文脈を理解し、多くが母国語で対応する点が強みです。市場情報、現地パートナーや専門家の紹介、法務・規制・法人設立に関する助言、すでにカナダで活動する同胞企業とのつながりが得られます。ただし支援の厚みは国によって異なり、有料や会員制のものもあります。② カナダの投資誘致機関Invest in Canada(連邦政府機関)、Invest Ontario、Investissement Québec、Toronto Globalなど、海外直接投資の誘致を任務とする組織です。市場ナビゲーションを無料で提供し、なぜその州かという比較材料、適用可能な補助金・税額控除の特定、州や市の担当者への紹介、拠点候補地の選定支援まで対応します。注意点は、雇用創出を伴う本格的な投資を検討する企業を優先する傾向があることです。まずInvest in Canadaに接触し、州や地域の機関へ紹介してもらう流れが一般的です。③ インキュベーター・アクセラレーターDMZ(トロント)、Launch Academy(バンクーバー)、FounderFuel(モントリオール)といった起業家支援組織です。スタートアップのコミュニティに最も近く、他の窓口では得にくい実務的な知識や人脈にアクセスできます。カナダ国内の住所、顧客・投資家への紹介、経験豊富な起業家によるメンタリングが主な価値です。ただしプログラムの多くはカナダ企業向けに設計されているため、海外企業の応募資格は事前の確認が必要です。エクイティを取得するプログラムもあり、条件は参加前に明確にしておくことが重要です。初回の渡航は3つの段階で設計する机上の調査で分かることには限界があります。初回の渡航は、次の3段階で組み立てるのが有効です。渡航前:文脈と信用と予定表を持って到着することが目的です。訪問先を調べ、母国の支援機関に接触し、イノベーションハブの見学を組み込みます。ミーティングの手配では、接触した相手全員に「他に会うべき人を2〜3名紹介してほしい」と依頼するのが有効です。カナダのエコシステムは相互のつながりが強く、紹介の価値が高いためです。現地滞在中:売り込むより聞くことを優先します。正直な会話を1回持つほうが、1週間の机上調査より多くが分かります。デモナイトや食事の誘いには応じることです。予期していなかった扉が開くのは、たいていそうした場面です。帰国後の30日間:実際の勢いが生まれるのはこの期間です。48時間以内に、会話の具体的な内容に触れた個別のメッセージを送ります。紹介は半減期が短く、時間が経つほど関係は冷めます。正式な進出決定までに12〜18ヶ月かけて2〜3回訪問する例が多く見られます。拠点をどう選ぶか地域を決める前に、自社と近い課題に取り組んでいるのが誰で、どこにいるのかを調べます。対象は6カテゴリーです。高等教育機関、民間企業(既存企業・隣接スタートアップ・潜在顧客)、起業家支援組織、地域に根ざした投資家、業界団体、そして政府の優先分野です。同時に、現実的な条件も見ておく必要があります。国際線が就航する主要空港はトロント、バンクーバー、モントリオール、カルガリーの4つで、それ以外の都市からの国際移動は難易度が上がります。車なしで生活できるのは前者3都市に限られ、ケベック州はフランス語で運営され言語に関する法規制もあります。コスト面では、トロントとバンクーバーが住宅・オフィスとも最も高く、モントリオールは同等のインフラを大幅に低いコストで利用できます。なお、最初の拠点が最終的な拠点である必要はありません。地域の仮説を立てて検証し、必要なら修正する。その前提で始めるほうが、判断は前に進みます。最初の一歩をどこに置くか法人設立を先に済ませる必要はありません。市場の検証、関係構築、リモートでの提携に、カナダ法人は不要です。採用、契約の締結、銀行口座の開設、政府の資金プログラムの利用という段階で初めて必要になります。順序を逆にすると、まだ決めなくてよいことに時間とコストを使うことになります。そして、カナダ人の礼儀正しさを合意と受け取らないことです。「ぜひまた話しましょう」は、純粋な関心の表明である場合もあれば、丁寧な終了の合図である場合もあります。判断すべきは言葉の温度ではなく、具体的な次のステップが設定されたかどうかです。最後に、進出の判断と拠点の選定は本来ひとつの検討です。分野ごとに強い地域が異なるため、「カナダに行くかどうか」の次に「どこにするか」を考えるのではなく、どの地域のどのエコシステムに接続するのかを先に描いたほうが、その後の意思決定は速くなります。まとめカナダのエコシステムは連携する前提で設計されており、最初の接点をひとつ作れば他の部分への扉が開きます。使える窓口は、母国の貿易支援機関、カナダの投資誘致機関、インキュベーター・アクセラレーターの3種類です。そのうえで現地に足を運び、地域の仮説を検証しながら拠点を絞り込む。この順序で進めるのが、遠回りに見えて最も確実です。『Canadian Ecosystem Report』では、進出プロセスの3段階をチェックリスト形式で整理し、避けるべき行動を含めたDo's / Don'tsと、各分野・各州の支援組織を一覧にまとめています。レポート全編は以下からダウンロードいただけます。レポートのダウンロードはこちら»